桜色の…
もう「こちら側」に来て、どれくらいになるだろう…。
こちらの生活にも慣れ、言葉にも不自由しなくなった。
…というか、『エトヴァルト』と呼ばれることにも慣れた、というべきか。
何を思ったか、全くの他人と同居する、ということにもなってしまっている。
でも、その相手が、性質が悪い。
あいつに、そっくりなのだ。
唯一の肉親(親父は除外する。あれは肉親とは認めん)、更には、この世で最も愛しい存在に瓜二つ。なのだ。
…それもそうだろう。その相手、というのは、「こちらの世界」での『アルフォンス』なのだから。
ご丁寧に、名前もそのまま「『アルフォンス』・ハイデリヒ」。
流石にファミリーネームは違うが…。
その『アルフォンス』が、生身の姿で、今はいつも、自分の目の前に居るのだ。
しかも、何事もなく成長していれば、こうなっただろう…いや、こうなって欲しい、という理想の姿で。
同居をしているから、といって、二人は、いつもいつも一緒に居るわけではなかった。
お互いの研究に没頭して、「そういや今日は顔を見ていないな…」という日も、お互いに度々ある。
しかし、何を取り決めたわけではないが、朝食と夕食のみは二人で取ることが自然に約束されていた。
当番などは、もちろん決めていなかったが、最初のきっかけが、
「エトヴァルトは、人間的生活に、関心がなさすぎる!」
というハイデリヒの言葉だったような覚えがあるので、なんとはなしにハイデリヒの方が食事を作ることが多いかもしれない。
その代わり、掃除などにはエドワードがこき使われる、ということになっている感じなのだが。
今日も今日とて、ハイデリヒが作成した夕飯をエドワードは食していた。
本日は、研究に身が入っていなかったので、比較的、人間的な一日を送ったと言えるだろう。
朝・昼・夜と3食とも食事を取っている。
今日の夕食のメインは、何か祝い事でもあったのだろう、近所の親父が今日つぶした、という豚のソーセージの盛り合わせだ。
中には見たこともないような色をした物もあったが…。
…真っ黒や、真っ白かよ…。
白はともかく、真っ黒なソーセージには気後れがして、「これは何か」と訊ねようと顔をあげた途端、ソーセージを口にするハイデリヒが目に入った。
彼の色素の薄い、それでもほのかに赤みがかった唇が、ソーセージを噛み切り、租借する。
「人」として生きている証拠の、食べる、という行為。
不意に、あいつは今、食事が出来る状態なのか。あいつの体は今、温かい血が通っているのか。
そう、心配とも焦燥ともとれない感情がエドワードの心中を駆け抜けていった。
アルフォンスの食事を取る風景を、もうかれこれ6年も見ていない。
あの柔らかい髪にも、温かい体にも、同じだけの年月触れていない。
自己の欲求の不満は、自覚した途端、あふれ出して止まらなくなった。
だが、そんなもの、いままで培ってきたポーカーフェイスで、他人に分からせるようなことなどしないが。
それを証拠に、ハイデリヒは「どうしたんだい?」と、食事の手が止まっているエドワードに不思議そうに聞いてくる。
自分が凝視されていることには気付いて、少々居心地悪そうな顔になったが。
しかし、エドワードの皿に残っているソーセージを見て、勝手に納得したようだ。
「ああ、その黒い方はね、豚の血のソーセージだよ。見た目は多少、慣れるまでは不気味かもしれないけど、とても美味しいから。それと、白い方は……、
まぁ、変な物は入ってないよ。白い所だけを入れて作ってあるからそんな色なんだ。」
もったいないからね、ちゃんと食べてよ。と、会話だけ聞いていれば、どこかの新婚家庭のような気もしないでもない会話が続いていく。
確かに、訊ねたかった事の答えを、訊ねる前に教えてもらっているのだが…、ふんふん、と、相槌はうちながら、それでも気になって仕方ないのは、ハイデリヒ
の唇で。盗むようにそこを自分は見ている。
「美味しい」という事を実証するかのように、ハイデリヒはその、黒い塊を口に運んだ。
…駄目だ…。
何処のどいつだ。「食欲と性欲は密接な関係にある」なんて言い出した野郎は!
ハイデリヒが、アルフォンスの顔で、アルフォンスの唇で、しゃべって、食事をして…。
これで、どうやったら俺が我慢出来ると思うんだ!?
エドワードは、皿に残っていた黒と白の塊を口にほおりこんだ。
がむしゃらに租借して、…白いソーセージの時には、一瞬珍妙な顔をしたが、無理矢理ごくんと飲み込む。
そして、終わったと共に、ガタンと音を立てて椅子から立ち上がると
「悪い!すまん!」
と何の説明もないまま、急に謝り、そして…。
ハイデリヒの唇に己のそれを押し当てていた。
本当に触れるだけ、すぐに離れるだけの接吻だったが、ハイデリヒは何が起こったか分からないまま、動きを全て止めてしまっている。
エドワードはもう一度小さく
「ホント、すまねぇ…」
ハイデリヒの瞳を見つめて謝罪すると、肩を落としてダイニングから出て行った。
残されたのは、今だ茫然自失から立ち直れていないハイデリヒのみ…。
逃げるように自分に割り当てられた部屋に帰って来たエドワードは、頭でも冷やそうと窓を開けて空を見上げてみた。
…夜空は…昼の空だって、向こうもこちらも何も変わらないのに…。
お前が居ない。
肉親であろうとなかろうと、俺の存在意義。俺の一番大事な存在。俺の愛を全て与えるべき存在が、今、ここに居ない。
馬鹿なことをした。
ハイデリヒには、本当に唯の身代わりをさせてしまった。
謝って済む問題でもないが、ハイデリヒには出来るだけの償いをさせてもらおう。
…させてもらえれば、の話だが…。
だが、そういう直面している問題よりも、心に重くのしかかっているものがある。
相手は同じ次元に存在していないのだから、こちらこそどうとでもなりそうな問題だが、だが、自分の内側が自己嫌悪で一杯になっている。
それを、口に出したからといって、どうなるわけでもないのだが、その重さに耐えかね、エドワードはぽつりと誰にも聞こえないよう、こぼした。
「すまん、アル。俺、浮気、したな」
実際はアルフォンスと何があるわけでもないのだが、こちらに来る前の3年間、心は確実に誰よりも通わせていた分、より、酷いことをしたような気が、エド
ワードにはしていた。
終
豆に「浮気しちまったー!」と、言わせたいが為に書い
ちゃったブツ。
あと、アルフォンスの「桜色の唇」っつーのも入れたかった。ハイデリヒだから、あんま入れられなかったけど。
エドリヒ、だけど、姐さんには不評を買うかも…。ごめん、姐さん(汗)。
本命は何処まで行ってもアルフォンスだよー、と言いたかったのさ。
しかもハイデリヒの性格設定、全く知らない状態だから、こんなんでいいのかどうか(汗)。
さらに、あの時代、そんな簡単に豚、つぶせるんかい!?もしそうなら、余程金持ちか、又は肉屋か?(汗)
ちなみに白い方のソーセージは、確か中身がなんかのミルクだった覚えがある。
よく食った!豆!
黒より白の方が危険、という教訓?(笑)
エルリック一族(笑)母さんことおうやあつね様から頂きました!
うおおおお!!!!え、エドアルベース!!!!んで浮気を悔やむ兄貴!!!くそう兄さんの馬鹿ーーー!!!!!(笑)
そうですね、確かに喰う仕草はエロチックですね。堪りませんね(笑)
しかもあんた喰ってんのソーセージて…唇油でテカってる上にあんな物目の前でくわえらてたらそりゃぁ健全な男子としたら堪ったもんじゃねぇな、哀れだエト
ヴァルト(笑)
いやこの程度は平気。元々アルエドアルの気があるから。
ハイデたんも可愛いなーカワイイなー(うっとり)
あ、ソーセージの種類調べてきやした。
独逸の場合黒いのがコッホヴルスト(血液、内蔵を使ったソーセージ)もしくはブルートヴルスト(血液を使ったソーセージ)でどちらも豚製品。
白いのはヴァイスヴルストで仔牛肉と牛乳が材料。オクトーバフェスタでは有名なものでビールとともに必ず喰うもの。
で、これがフランスだとブータンノアール(豚の血液と脂肪のソーセージ)ブータンブラン(豚肉、牛乳、卵のソーセージ)でこれはクリスマスに喰うものなん
だそうだ。
奥が深いぜソーセージ……(笑)
本当にありがとうございます!キャー!!!!
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