やばいから、と。
 こんなのは良くないと、頭の中で警鐘が聞こえるけれど、ハイデリヒの手は己の意志を無視して動き続けている。

 くちくちと、指が滑るたびに上がる水音が、ハイデリヒの羞恥を堪らなく煽る。

「あ……ァ、あァ…ッ」

 絡む指の先は、固く熱く存在を主張するハイデリヒ自身。
 もう止めなければと幾度も思いはするが、自身を慰める手は止まらず、身を捩るたびに、ハイデリヒが身につけているシャツの袖口が張り詰めたそれに掠めていく。

「っ、は…ぁ、あ…ェ、トヴァ…ト…」

 自分でも恥ずかしいくらい濡れた声が、切なげに部屋のあるじの名前を呼ぶ。
 勿論、返事が来ないと判っているから呼べるのだけれど。

 彼の留守に。
 彼の部屋で。
 彼のベッドの上で、彼を思いながら自慰に耽るなど。

 普段のハイデリヒの道徳観から鑑みればあり得ない程の暴挙なのだが。
 だって彼が家を空けてもう5日。
 その間ずっと1人きりで待ち続けて、思わず淋しいとか物足りないとか構ってほしいとか、そんな事を考えてしまって。
 たまたま、彼の脱ぎ捨ててあったシャツを手にしたら。
 そのかすかな残り香を、もう少し近くで感じてみたいとか思ってしまったのが運のツキ。

「ん、あぁ…ふ…ん…ット、ヴァ…ル…っ!」

 ぞくり、と身の内が震えて。
 低く甘い、彼の声を思い出してしまって。
 してはいけないと思いはしても、彼に触れてもらえない渇えばかりを見つけてしまって。

 御免ねエトヴァルト、と何度も心の中で謝罪して。
 躊躇いがちにベッドに座り下肢を寛がせ、そっと指を絡めれば忽ち行為に没頭しだしてしまって。

 そうして幾度も、エトヴァルトの名前を呼び続ける。

「ふ…、んん…ぁ、あ、あッ…!」

 固く目を閉じれば、浮かぶのは獰猛な蜂蜜色のキツい眼差し。
 均整のとれた、しなやかや肢体。
 ハイデリヒの弱い所ばかり、的確に狙ってくる綺麗な指先。

 低くて腰にくる声が耳元で囁いて、ハイデリヒを嵐の中に連れ出してしまうのだ。

 空想の中の彼にさえ、ハイデリヒの熱は昂ぶるばかり。

 そうしてハイデリヒを蕩かす言葉を紡ぎだす、薄くて柔らかい唇。

 ああ、どうかキスしてくれないだろうか。
 ハイデリヒの躯から心まで、全てをとろかすような彼のキス。
 この場に居る筈も無い彼に、こんな詮無い願いを請い願ってしまう自分は既に末期だ。
 でも。
 だって彼のキスは、ハイデリヒの全てを奪い去る。
 しかもそれをハイデリヒ自身が望んでしまうのだから。
 だってもう、どうしようもない。
 だってこんなものは、いつだって惚れたほうの負けなのだから。

「も…、エド…ッ!」

 ぞくぞくと背筋を駆け上がる射精感。
 限界が近い為により激しくなる動きに、ハイデリヒの喘ぎは忙しなくなっていく。

「…っは、あっ…ん、んん!?」

 限界を迎える寸前、何か強い力で顔を後ろに向かされた。
 そうしてそれが何かと確かめるより先に、強引に唇を奪われて。

「ふっ、ぅ、んんっ! は…っ、ぁ…!」

 あえかな呼吸さえ奪うほど、そんな深く激しい接吻をハイデリヒに仕掛ける人物など唯1人。
 何故ここに居るのかとか。
 いつのまに帰ってきたのかとか。
 こんな事をする自分に、何故キスをするのかとか。
 思い付く事柄は幾らでもあるけれど、今はただ待ち望んでいた唇の熱に溺れてしまいたい。

「エトヴァルト…!」

 漸く解放された唇で、吸われ過ぎて少し痺れた舌先で、ハイデリヒが呼び続けた名を口にすれば。
 もう1度、そのおとがいは塞がれる。
 ふんわり優しく、それこそ羽が触れるように。

「あんだけ呼ばれて、答えないのは野暮ってもんだろ?」

 挑戦的で、愉しげで、どこまでも魅力的に微笑むエトヴァルト。
 そのまま彼の正面を向かされ、口づけられながら押し倒された。
 そうして5日ぶりの彼は、やっぱりどこまでもハイデリヒを昂ぶらせる。

「御指名料は、サービス料込みでまけといてやるぜ?」
「きみの……言い値で、払うから」

 だから早くと。
 その熱をもう1度と。
 首に手を回し、ハイデリヒは普段なら決して言えないような台詞を、そっとエトヴァルトの耳元に囁いた。
 
 そんなハイデリヒの捨て身の誘い文句に、返ってきたのはディープキス。
 今度こそ、ハイデリヒの身も心も蕩かせて。


   END



勢いのままに書き殴っちゃったよ…
あまりエロくなりませんなー…うーん修業不足。



開設一号目の投稿者、澤内七穂様よりふんだくって…もとい頂きました!
ハハハハハハハイデたん……っ!!!(吐血)
た、単独遊戯言う奴ですなこれは(黙れ)
どーもごっそさんでしたー!
 
 
 
 

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