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夢の居場所
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「ただいま グレイシアさん」
喪服のまま、大きな買い物袋を抱えて下宿へと帰ってきた兄弟は
一足先に帰り着き、店の準備をしている女性に声をかけた。
「服、後でクリーニングに出してきますから ちょっと待って下さい」
「お帰りなさい。 気にしなくていいわよ。脱いだら置いておいて頂戴」
アルフォンスは素直に”ハイ”と言いそうな兄の袖をひき、
「ダメだよ兄さん!そういうことはきちんとしなきゃ!
すみません。ちゃんと洗ってお返ししますから」
ぺこりと頭をさげる。
グレイシアは くすりと笑うと小さな花束をおしつけた。
「本当にいいのよ 気にしないで。
はい。咲ききっちゃってるから見ごろは今日明日だけど 飾ってあげて。」
「ありがとうございます。きっと喜びます」
2階の自室の扉を開けると、2人は息の合ったハモリをみせる。
「ただいま!」
個室2つに、広めのキッチンとテーブルのあった部屋は間取りが変えられ、
広いリビングができていた。
どこからでも声が、目が そこに置かれたベッドに届くように。
「お帰りなさい。どうでした?」
軽く背の起こされたそのベッドから、やわらかな笑顔を向けるハイデリヒがいた。
「合同葬儀って言っても、形式だけだからな。 比較的小さなものだったよ。」
”あの”騒ぎに巻き込まれた犠牲者は少なくはなかったが、
ほとんどがトゥーレ教会の信者だったため、弔ってくれる人間も少ないらしい。
エドワードは借り物のスーツを脱いでソファに放り、ハイデリヒのベッドへ腰を下ろす。
「なんだか心苦しいよ 僕も行きたかったんだけど・・・」
「仕方ないだろう まだしばらくの間は安静にしていないといけない状態だからな。」
胸を赤く染めたシャツは、エドワードの思考を停止させるには十分で
たとえ 錬金術が使えたとしてもすぐには反応することはできなかっただろう。
彼に正気を取り戻させたのは、練成反応の青い光だった。
”こちら”へ身体を作ったエドワードと違い、
強引に通りぬけてきたせいか、アルフォンスは錬金術を使うことができるらしい。
あの兄のことだ。怪我など日常茶飯事。
つらい旅の記憶はなくとも 医療系錬金術は必要になるだろう と学習していた。
極端に破損していたり、病気の治療となると話は別だが
ハイデリヒの傷は 銃弾の貫通した小さな傷をふさぐだけで済むもので、
そしてさらに幸運なことにアルフォンスは”グラトニーの一部”を拾っていたのだ。
とはいえ 弱った身体を異物が貫通し、大量の血が出て行ったのだから
はい 治りました と けろっと言うわけにはいかない。
それでなくとも不健康な白い肌はよりいっそう青白く
このままいってしまうのではないかという恐怖をかりたてる。
「ああっ!兄さんったら 借り物の服なのに脱ぎっぱな・・・・
あああっ!!!ハイデリヒったら また ろくに食べてない!!!」
花瓶にいけられた花を手に 嬉しそうに向かって来たアルフォンスの表情は
散らかされた兄の服と、ほとんど手つかずのハイデリヒの食事に一気に崩された。
色々中身をかえた小さなサンドウィッチは、作った本人にしか
解らないほどしか減っていない。
エドワードに花瓶を渡し、スーツをたたみながらキツイ視線をむける。
「貧血が続くとあちこちに障害がでちゃうんだからねっ!」
「まあ 俺の話は置いておいて、だ ハイデリヒ。お前はいけないな うん。」
「置いておくだけでちゃんと戻すけどね。朝食の牛乳を残した兄さん。」
アルフォンスは、顔を見合わせ苦笑する二人を尻目にスーツを片し
大きな買い物袋を持って来ると中身をハイデリヒの前に並べ始める。
「いろいろ 栄養の取れそうなもの買ってきたからね。
辛いのは解るけど むりやりでも食べて体力つけなくちゃダメだよ」
フルーツから、いろいろな缶詰め、ビン詰めの他に
エドワードと違い 調理することを前提にした生肉や魚、野菜、卵、乾物、
香辛料までが買い揃えられていた。
「アル レバーの入ったオムライスにしようvオムライスv」
”レバー”が エドワードなりの気遣いらしい。
「兄さんのリクエストはハイデリヒの後でしょ!
ハイデリヒ何なら食べられそう?違う物ならまた買い物に行ってくるよ?」
「・・・ありがとう じゃあ オムライス」
こんな時にまで 人に気を使うのも彼らしいが カンタンに認めるアルフォンスではない。
横で小躍りする兄を抑えてじっとハイデリヒの目を見つめ 問い詰める。
「・・・食べるね?ホントに食べるんだね?気合入れて作っちゃうよ?」
もう目をそらすしかない。
「・・・ゴメンナサイ スープでいいです・・・」
「あーもー!こんな時にまで人に気を使わないっ!
よし じゃあ チーズたんまりのオニオングラタンスープにする。」
「う・・・」
「う じゃないでしょ。食べるね?」
半ば強引にハイデリヒを納得させるとため息混じりにつぶやく。
「まったくもー。ハイデがそんなじゃいつまでたっても帰れないよ」
アルフォンスはこちらでも錬金術が使える。
それも両手ポンで練成できるのだから、後でこちらに残った錬成陣を消してもらう必要もないのだ。
いつでも 帰れる。
帰ってしまう。
ハイデリヒの回復の遅さはそこにもあったのだ。
実際に食欲も無いのだが、回復したら帰ってしまう その気持ちがストレスにもなり
より一層の吐き気やめまいを呼び、もともとの体力のない身体に負担をかけていた。
親の気を引きたい子供のような幼稚な手だと思いながらも
回復に努めようと言う強い気持ちにはなれない。
「? ハイデリヒ・・・?」
アルフォンスは自分の言葉に、ハイデリヒが一瞬表情を曇らせたことに気がついた。
同時に、エドワードが反応したことにも。
「兄さん まだハイデリヒに話してなかったの?」
エドワードの言葉を恐れて、先にハイデリヒが切り出した。
「そ そうだよね
アルは錬金術が使えるんだから 僕がこんなじゃなければすぐにだって帰りたいよね
ごめんね 僕なら大丈夫だから・・・・」
「ちがう!」
泣きそうにいつもの笑顔を見せようとするハイデリヒを止めたのは
アルフォンスよりも一瞬早い エドワードの声だった。
「・・・・違う。そうじゃねぇ・・・。」
一息つくと 視線を落としたまま話し始めた。
「・・・これだけの騒ぎ起こしといて 今更なんだけどよ・・・
これ以上 本来あるべきカタチを崩していいのか・・とか・・・」
「エドワード・・・?よく解らないよ・・・?」
ハイデリヒは想像していたものとはまるで違う言葉に、
アルフォンスにも助けを求める視線を送るが
理解できない当人を置いてすでに話は兄弟のものになっていた。
「俺達が帰りたいのと同じように、ハイデリヒにもこの世界ですごした17年間があるんだ。
友人も・・夢も・・・。」
アルフォンスの口調は 兄の態度が気に入らないのか荒い。
「そこからは ハイデリヒが決めることでしょう?
だいたい2年も一緒に暮らして ハイデの気持ちも解らないの?」
「お前が言うな!2年間ハイデリヒと暮らしてたのは俺だ」
「僕はハイデリヒ だったんだもの!兄さんより知ってるよ!」
「な・・・?」
アルフォンスが魂の分離、定着を出来ることは解っていたが、
さすがにその言葉には驚きを隠せなかった。もちろん ハイデリヒも。
「・・・兄さん一回だけ ハイデの前で泣いたことあったよね。」
「!」
「・・・去年のクリスマス。ボクに会いたい・・って。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜★@:+※!!」
恥ずかしくないはずがない。
人前で泣いた恥ずかしさの上に、会いたいと言った相手に見られていたのだ。
アルフォンスは
赤面し、口をぱくぱくさせながら指をさし腕を振り回す兄を放置して
ハイデリヒに話を振った。
「ボク達の世界には医療系の錬金術に秀でた人もいる。その人ならハイデの病気も治せると思うんだ?」
「アル・・っ それ・・・って 僕・・・」
初めて 話の内容がわずかに理解できたハイデリヒの表情は明るさを取り戻し始める。
「あああああ!」
エドワードは照れくささを誤魔化すように頭をがしがしとかき回すと覚悟を決めたのか、
赤みののこった真面目顔をハイデリヒの方へ向け一気に言葉を吐き出した。
それはまるでヘタなプロポーズのようだった。
「向こうにはロケットはないが車くらいならあるし機械鎧ってぇ物もある!
おまけに何より お前の健康が手に入る!!これからも一緒に暮らさないか?!」
一気に吐き出すと すぐには反応できないハイデリヒを
子供のように上目使いに見る。
「・・・ついてくるか・・・?」
そんな顔をしておいて、後で
やっぱり来るな
なんて言われた日にはとても立ち直れない。
「・・いいの・・?僕 一緒にいても・・・」
「あのな。 ダメなら お前を病院に入れて直後に帰ってる。」
エドワードのいつもの憎らしい笑みに、
ハイデリヒは抑えられずしがみつくと わっと泣き出した。
「ほら 兄さんがちゃんと言わないから ハイデ不安な思いをしてたんだよ かわいそうに。」
「〜〜〜うっさい。」
言葉では逆らいながらも自分のせいで、
いい歳をした男が人前で泣き出すほどの不安な気持ちにさせていたのかと思うと
さすがに罪悪感を感じないではいられなかった。
しがみつかれた状態をどうしたものかとためらいながら、その手はハイデリヒを撫でている。
「本当のアルフォンスが傍にいるんだから・・・もう 僕は要らないかと思った。
なのに、君は変わらずにやさしくて・・・アルもやさしくて、毎日が幸せで・・・
それが急に僕を残していなくなってしまうんだと思ったら さみしくて さみしくて・・・っ」
張り詰めていたものが急にぷつりと切れて、ハイデリヒの涙は止らなかった。
恥ずかしさよりも今はとにかく 全部ぶちまけて安心したかった。
・・・・子供のように撫でてもらうのはこんなに気持ちのいいものだったのか。
「お前は お前 だろ ハイデリヒ。ちゃんとわかってる。
だから この世界を認めたから お前を連れて帰るのをためらった。」
エドワードはハイデリヒの病のことに気づいていた。
治らないことは本人が一番わかっていたし、
気遣われれば ますますそれを意識することになる。
この世界の住人ならば、その病での寿命もしかたのないものだろう。
だが ”錬金術”のある自分たちの世界へ帰る方法が、救う方法がある。
一緒に来れば 彼は 長年苦しめられてきた病から解放されるのだ。
しかし 彼の夢はここにしかない。
夢のためにならば こちらの世界を選ぶのではないか。
夢の無い世界での病からの開放
それは彼にとって意味のあるものなのか?
彼がNeinと答えたなら
夢のために・・・一人きりにして・・・おいて帰るのか・・?
背を丸め、ハイデリヒの頭に手をまわして引きよせ小さな声でつぶやいた。
「だから・・・お前の答えを聞くのが怖かった。」
ハイデリヒは ゆっくりと顔を上げ、苦笑するエドワードを見つめた。
━ 弟の代わりではなく、
アルフォンス・ハイデリヒ を見てくれていた ━
今までも弟似の自分には
他の人には見せないような笑顔を見せてくれることはうれしかったけれど、
今の表情は自分のためのもの。
そう思うととてもうれしかった。
「僕ね・・・今頃気が付いたんです。
いつの間にか 僕がロケット研究に打ち込んでた理由が
”帰らせてあげたいから” に変わってたってことに。
だから・・・あなたがいないなら 僕の夢はもう ここにはないんです。」
相手を思いやるからこその拗れはややこしい。
アルフォンスは やっと一安心 と 思ったものの、
なんだか感動のシーンを 一人外れて見ているとこちらが恥ずかしくなってくる。
そっと席をはずそうとするとハイデリヒの手はアルフォンスの袖をつかんでおり、
次の瞬間 抱きしめられているのは自分にかわっていた。
「アル 大好きだよ。会ったばかりなのに他人とは思えないくらい。」
感動のシーンに巻き込まれてしまった。
身動きがとれないくらい、ぎゅっ と抱きしめられているのに 嫌な気持ちはしない。
むしろ 欠けていた、自分が戻ったような心地よさ。
抱きしめ返すと 満たされた気持ちにすらなる。
「健康にならないと扉ぬけられないからね。ちゃんとご飯食べてね。
イヤだって言ったら 兄さんに口移しででもたべさせてもらっちゃうからね*」
こんなことが”幸せ”なのだと改めて思う。
これからは一緒に走ったり笑ったりできるんだ。
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初文字腐女子!!
ダメダメながらも書いたからには
読んで欲しかったのでつれてきちゃいました。
そうだよな!とか思ってもらえてたらうれしいです。
いづみ m(_ _)m
いづみ様から頂きました、オム(撲殺)……もといハイデリヒInベッドです
ええええーと、これ私サイトで拝見させて頂いていてですね…暫くオムライス喰いたい病にかかっていたのです(元々オムライス病持
ち/汗)つかそれではなくハイデたん!!!!三人で生きて行くのですね!うわーどうしようやっぱり嬉しさでプルプルする…
というかこれは初書き小説というのがまた信じられません。いづみ様、素晴しい小説を有難うございました!
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