その、熱が
 全て焼き尽くしてくれたらいい、のに




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 暁 ノ 花 〜Blume von Dämmerung〜 
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「っ…く、ぅう……」
 その、圧力は想像以上だった。
 ぐ、と押し入ったそれが肉を割り内腑を暴く。
 圧迫感に、逃げるように腰を浮かせばするりと体を滑る手が腰を捕え。
 内部を進む感覚と共にぴたりと下肢が密着する。
 繋がる部分からじりじりと拡がる熱波は体細胞を浸蝕し、この身体を何か違う別の物体へと変質させていくのだ。

 こんな事は、知らない。

 内部、で。
 それが―――――この身の内に入り込む彼の身体の一部であるそれが。
 己の身じろぎ一つで、簡単に質量を増す事も。
 その事でまた己が熱に犯される事も。

「う…ぁ、っ……ふ、っく」

 初めて―――――知った。
 それは…正しく灼熱、だ。
 まるで、燃え盛る炎に覆われた様に。
 識らぬ熱さに、ぐずぐずと溶けていく。
 溶けて、燃えて。
 何時か跡形も無く燃え尽きる、のだろうか。

「……大丈夫、か」

 声が、耳に注がれる。
 言葉の終わりと共に耳朶を軽く嵌れて、またびくりと身体は竦んだ。
 そろそろと瞼を開けば、琥珀の瞳が優しい光を宿して見つめていた。
 ああ、本当に。
 知らない事ばかり、だ。
 彼がこんな…穏やかな顔をする事だって、知らなかった。

「辛いなら、止める」
「……、ぃき……だ、よ……」
「……無理、しなくていいから」
「だい…ょ、ぶ……」

 確かに。
 押し上げる圧も駆け巡る熱も、無理していなければ耐え切れないものだ。
 だけど、それでも。

「だ、から」
「アル…フォンス」
「だいじょう、ぶ…だか、ら……」

 感じたかった。
 識りたかった。
 僕の知らない、君を。
 僕の知らない、僕を。
 それ、が封じられた扉は僕の中にあって。
 その鍵は、きっと。

「……エ、ド……ァ…ド……」

 君が、持っている。

「止められないぞ、いいんだな」
「構わ…な、いよ……」

 少し、無理矢理に笑みを浮かべれば。
 それに気づいた君が困った様に笑って、キスをくれる。
 片腕じゃぁ上手く抱きしめられねぇや、と笑うから。
 じゃあ僕がその分抱きしめるからと、笑って。
 力の抜けた腕を、そっとそっとその背に回した。

 身を、心を灼くその熱に、変わり行く己の全てを委ね。
 溶けて溶けて、いっそ一つになれればと何時しか願い。
 緩やかに揺すり上げられる度に神経を走るその苦痛一歩手前の快楽を。
 僕はあるがままに、了受する。
 そして、与えられる熱より熱い、その想い。
 君を愛して、愛されるその、快楽を。
 僕はあるがままに、受け止める。

 こんな僕は、何処にだって誰にだって見つからない。
 見つけたのはただひとり。
 ただひとりの君だけなのだから。





 暁ノ花 〜Blume von Dämmerung〜   05.5.19



 

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